1年前に妻を病気で亡くしました。
若い頃からの不摂生はこの歳になっても止めらえず、自分がてっきり先に逝くもんだと思っていたのに。本当に、男ってのは1人残されるとダメですね。
「あの時優しく言葉をかけてあげればよかった」
「奥さんのことをもっと大事にできたはずなのに」って後悔ばかり出てくるんですよ。
だからせめて、旅立った時は葬儀を盛大に、お墓もでっかいやつにすれば良かったなんて、その時は考えていたんですけどね…。
妻の急死で弔いのすべてが後手に
そういえば、生前よく妻が「そろそろ終活しなきゃね。エンディングノートなんて便利なものがあるらしいのよ」と、事あるごとに私に話をしていましたよ。
どうやら妻の友達が相続で家族ともめたとかで、その時にエンディングノートの講習かなんかに行ったらしいんです。
私はその時「まだ死んでもないのにそんなこと言うなよ!」なんて結構強い言葉で叱咤したんですよね。以来、妻は終活のことを私に話さなくなって。
私は、会話のネタが1つなくなったくらいの感じでいたのですがね。妻にとってそれは、とっても大きな意味を持っていたんだなって、後になって気づかされましたよ。
エンディングノートというやつも、妻自身のためじゃなくて私のためだったんだって、後になって知るわけ。
妻がどんなふうに見送って欲しいと思っているか、葬儀の連絡を誰にするか、そんなこと分かりもしないから、ひとつひとつを私が決めなきゃいけなくなるんですよね。
結局、ほとんどが葬儀屋さんのいうがまま。気が付けば葬儀が終わっていて、遺骨はどうする、法要はいつどこでやる、お墓はそれまでに建つのか云々、決められない日々がずっと続いていたように思います。
お墓は誰のためにあるのか…
妻が亡くなってから民間墓地を探しに行ったのですが、今ってこんなに墓地が不足しているなんて思いもしませんでしたよ。
誰かが死んだら墓を建てて、そこに遺骨を安置する。これって何も疑うことなく当たり前にすること、できることだと思っていたんです。
それなのに、お墓が立たないんですよね。今の時代。
墓地もろくに空いていやしない。それに墓石って結構な値段だし、管理料が必要だなんてことも全く想像していませんでした。
そこで、ふと思ったんです。「こんなに墓を建てることにこだわって、一体この墓は誰のため、誰のものなんだ?」ってね。
いずれ近いうちに私も妻のいるところに旅立つでしょうよ。墓があれば子どもたちもいろいろ考えずに、お墓に納骨すれば良いと思うだろうな…なんて考えていた私って、本当に身勝手ですよね。
お墓に納骨して、それっきりってわけじゃないし、墓守をする子どもにとってその相手は「あちらの世界にいった物言わぬ親」だなんて。想像するだけでプレッシャーだよ。
結局お墓って、送った人側の満足だけなんじゃないかって。
そこを頼りにすがって生きる糧にする人もいるかもしれない。
でも、そうじゃなければハッキリ言って、送った側の自己満足ですよね。「こんだけのことしてやったんだぞ」って。
そんなの、妻は絶対に望んでいないと思いましたね。
自然に還って妻と来世も一緒にいられるように
この歳になると、子どもたちも所帯をもっているし、子供と一緒に暮らした時間よりも、離れて暮らした期間の方が長いわけで。
今さら自分の墓の世話を頼んだりするのも、何だか申し訳ないですよ。
死んだ人間のために、将来がある子どもや孫の必要な資金を使わせるなんて。
それなら、生きている間に親孝行してもらった方がよほど私もうれしいし、後々で、子どもたちの満足感も高いと、絶対そうだと思いますね。
だから、現生に亡き骸は残さないほうがいいと思いました。
思い出に、私が使っていた時計とかネクタイピンとか。遺品1つを墓代わりにでもしてもらえたら、子どもたちも身軽だし気軽だし。私もその方が嬉しいと思うようになりましたね。
「自分で動けるうちに、どこか私と妻の遺骨を納めてくれる場所を探してほしい」と子どもに頼んだら、インターネットで調べて、すぐにその情報を私のスマホに送ってきました。
いや、便利な世の中ですね。本当に。
それが別府湾の海洋散骨でした。海が大好きだった妻。「ここなら妻もきっと喜ぶはずだ」と、年甲斐もなくはしゃぎましたよ。
生きているうちには一度も妻に言わなかった「死んでもずっと一緒だ」なんてことが、ここなら実現しそうだなと思ってね。
そんなこと自然に還ってしまえばわからないんだけど、ちょっと夢を見せてもらったような。すると、あちらに行くのも自然と怖くなくなりましたよ。
独りじゃないんだな、って。そう思ったんですよね。
海を見れば妻を思い出せる。まずは妻を海洋散骨してもらいました。そしていつか私も一緒になります。
毎週、海を見に、妻に会いに行っていますね。心が安らぎますよ。
いずれは、自分も海に還るから。別府湾は、自分のお気に入りの場所になっていますよ。