自然葬とは お墓に入らず自然に自分を「還す」こと。
日本では、亡き故人を弔う際に葬儀をあげ、火葬場へ行き、お墓に納骨するのが一般的です。もちろん大分県も例外ではありません。所どころ土地の風習や慣習の弔い方もあるでしょうが、おおよその流れは同じです。
親族や知人が亡くなってお葬式に参列したり、納骨に付き添ったりといった経験をくり返すと、納骨までの流れを「常識だ」と無意識に思い込むのも無理はありません。
しかし昨今では、終活を通して、自分の死後をどのように弔ってほしいのか…と予後を考える人が増えています。その中でも、自然葬を願う人が増えているのです。
自然葬とは
「自然葬」とは、石で作った墓に骨を埋葬せず、山林や海といった自然界に遺骨をゆだねる埋葬方法です。遺骨を土に埋めたり、遺骨を海や空に撒いたりして、生命循環をくり返す自然界へ徐々に身を還していきます。
骨は、地中や海の中に埋葬するとやがて風化します。風化した後、海の中で微生物が魚を育てるように、また、細い苗が根から養分を吸収して木の幹を太らせるように、自然の生命サイクルの中にくみこまれていきます。
昔は自然葬だった!
今ではお墓への納骨が一般的と思われていますが、実はこの風習は明治時代からと言われています。
遡ること江戸時代、かつて隠れキリシタンを撲滅しようとした幕府は、庶民に対してどこの寺に属しているかを届け出させる制度を敷きました(檀家制)。大分県には1200を超える寺社がありますが、寺院はこの時代に庶民の生活と密接していて、慶弔(埋葬、供養や法要も)を寺で行うようになりました。
しかしこれは土葬が主流だった時代のこと。遺体を埋め続ければ、境内のお墓はどんどん大きくなってしまいます。
火葬を忌まわしむ神道の宗主である明治天皇は、寺院墓地を国有化して家督制度を敷き、寺にあった墓を家の長男に相続管理させるための法を整備しました。ただし、近代化や人口集中が進む都市部では、土葬する墓の用地がだんだん不足しはじめ、やがて遺体を小さくすることのできる火葬にシフトしていったという背景があります。(宗派や地域性、慣習などそれぞれ諸説が異なります。日本全土一律の歴史ではありません)
骨壺文化がスタンダードとなった今、先祖や両親、近親者がすでにお墓を所有して(継いで)いる人が多い背景には、近代の歴史が大きく関っているのです。
代々家の墓に入るという暗黙の了解
ひと昔前は、近しい人に「自分が死んだあとは…」と話を始めると、「縁起でもない!死ぬなんて!」と言われることがありました。
「墓を守ってくれ、代々祖先はここに入るんだから」と葬儀や法事のたびに家族から言われて、「いつか自分が死んだらこの墓に入るんだろうな…」とぼんやり考えたことがある人もいるかもしれませんね。
死後の話がタブーでまかり通ったのは、代々継がれてきた家の墓に入るのが当たり前だという暗黙の了解が成り立っていたからでしょう。
ただ、タブーだと思われた話は最近の終活ブームにのって、前向きかつ現実的に考えようとする流れに変わっています。
今を一生懸命に生きることはもちろん大事です。ただ、亡くなった後のことを考えていなければ、死んだ後はお任せで。と言っているのと同じこと。
時代の流れに沿って、家族の在り方や生き方、価値観も変わりつつあります。かつての「暗黙の了解」を続けづらいと感じている人が増えてきて、お墓そのものに対する考え方も変化してきているのです。
骨を墓に残さない 自然葬を望む人が増えた理由
自然葬には、石碑・墓石といったシンボルがありません。「ここ(墓)に眠る」ではなく自然界にその身を戻すので、弔う家族や葬儀後に離れて暮らす親族は、自然を見ればいつでも生前の故人をしのび想うことができるのです。
また、健康寿命が延び、元気なセカンドライフ世代人口が年々増え続ける現代では、自分の生き方や生きがいを大事にしながら時間を過ごした人ほど、人生の終い方に対しても自分らしく有りたいという願いを抱いているようです。
思い出の旅先、人生の伴侶と出会ったあの場所、趣味のダイビングをしに訪れた海や山登りで感じた空気…大分県にも思い出のシーンに選んでもらえそうなスポットがたくさんありますが、生き方を象徴するような場所で、自分らしく葬られたいと考える人が増えました。この想いを叶えたい近親者にとっても満足度の高いお見送りができますし、お墓の掃除や手入れが行き届かないことを申し訳なく感じることもありません。
初めて所帯を持った地、旅をした思い出の地、生まれた地、子育てをした地など、思い出の地に眠りたいという時、お墓を持たない自然葬は素晴らしい選択となることでしょう。
自然葬をしたい場合の注意点
自分や家族の最期がいつ来るのか、誰も予測はできません。突然「その時」が訪れ、故人を送る人は短い時間でいろんな手続きや決め事に追われます。もしかしたら、檀家や地域にまつわる埋葬の流儀、やむを得ない事情に流されてしまうこともあるかもしれません。
自然葬に限らず、どうやって弔いをするか(してほしいか)、生きているうちに意思をしっかりと伝える・聞くことが大事です。
自然葬を望む場合は、後で改葬(やっぱり石墓に納骨して欲しい!)することが出来ない点が最も問題になるでしょう。残される側の人たちの想いもくみ取りながら、生前のうちに、将来の話を皆で進めておくことをおすすめします。