「抱きしめていいですか?」
2026年7月8日、梅雨の合間に広がった青空のもと、別府湾で代行海洋散骨を執り行いました。
波は穏やかで、空には夏を感じさせるような青さが広がり、海も静かに私たちを迎えてくれました。
この日、お預かりしたご遺骨は13柱。
お一人おひとりのお名前を確認しながら、感謝の気持ちを込めて丁寧に散骨させていただきました。
ご遺骨を預かるとき、受け取るとき、それぞれにご家族の想いが伝わります。
海へ還る花びらを見つめながら、あるご家族との出来事を思い出しました。
そのご遺骨は、お父様のものでした。
ご家族がご遺骨を当協会へ持参されたのは、火葬を終えた翌日のことです。
まだ悲しみも癒えない中でのご来所でした。
お話を伺うと、お父様は亡くなられた当日の朝まで、いつもと変わらない生活を送られていたそうです。
朝ごはんをしっかり召し上がり、
「今日も元気だね。」
そんな何気ない時間が流れていました。
そして午前中、入浴までのわずか一時間ほどの間に急変。
そのまま帰らぬ人となったそうです。
突然のお別れ。
きっと、ご家族の驚きや悲しみは計り知れなかったと思います。
それでも、ご家族はこんな言葉を話してくださいました。
「最後まで普通に朝ごはんを食べることができたんです。」
「苦しまずに旅立てたことが、本当にありがたかったと思っています。」
その言葉には、悲しみだけではなく、感謝の気持ちも込められていました。
人は大切な人を失うと、
「もっと何かできたのではないか。」
「あの時こうしていれば。」
そんな後悔を抱えることがあります。
しかし、このご家族からは、その後悔は見受けられず、穏やかな空気が伝わってきました。
それは、お父様との時間を大切に過ごしてこられたからなのだと思います。
手続きを終え、お帰りになる際、ご家族が静かにこう言いました。
「抱きしめていいですか?」
そう言って、お父様のご遺骨を胸に抱き寄せました。
しばらく何も言わず、静かに抱きしめるその姿がありました。
その時間には、言葉では表せないたくさんの想いが込められていたように感じました。
「ありがとう。」
「お疲れさま。」
「また会おうね。」
そんな言葉が聞こえてくるようでした。
私はその光景を見ながら、
「本当に素敵な親子関係だったのだな。」
そう感じました。
散骨とは、ご遺骨を海へ還すことだけではありません。
大切な人へ感謝を伝え、
心の中で新しい形の供養を始める日でもあります。
今回の代行海洋散骨でも、お一人おひとりの人生に物語があり、ご家族との思い出がありました。
私たちは、その想いをお預かりし、心を込めて海へお送りしています。
花びらが海に浮かび、ゆっくりとご遺骨が波に溶け込んでいく様子を見ていると、
自然はすべてを優しく包み込んでくれる存在なのだと改めて感じます。
これから先、
ご家族が海を見た時、
潮風を感じた時、
きっとお父様を思い出されることでしょう。
海洋散骨は、お墓がなくなる供養ではありません。
海という大きな自然が、新たな祈りの場所になるのだと思います。
海を見ながら語りかける。
「今日も頑張っているよ。」
「みんな元気にしているよ。」
そんな日常の一つひとつが、これからの供養になっていくのだと思います。
最後に、ご家族が見せてくださったあの光景を、私は忘れることができません。
「抱きしめていいですか?」
その一言には、
お父様への感謝、
深い愛情、
そして最後のお別れを大切にしたいという想いが、すべて込められていました。
私たちはこれからも、その大切な想いを胸に、一柱一柱、心を込めて海へお送りしてまいります。


